「大切にしたい2冊の本」

  • アシスタントプロデューサー 栃原紫帆

こんにちは。
ドラマ・映画制作局 プロダクション1部の栃原です。
今、私はプロデューサーを目指す上で、自分の考えや意志を伝える事の難しさ、自分が良いと思った物事の魅力を伝える難しさに直面しています。

そこで、今回は自分自身の訓練も兼ねて、私が皆さんにオススメしたい本を2冊激選し、紹介させていただこうと思います。
今回ご紹介させていただく本は何れも、撮影現場での出会いがきっかけで読んだ本ですが、同じようにこのブログをきっかけに読んでくださる人が増えたら嬉しく思います。

川上未映子「夏物語」

あたりまえの根幹が揺さぶられる、衝撃作。

「生殖倫理」というテーマ性の強い物語で、生まれること、産むこと産まないこと、生きることを考える長編小説です
2020年本屋大賞7位に選出選出されており、ご存知の方も多いかと思ます。

私がオンナだからでしょうか、非常に共感しながら読みました。
男性が読んだらどんな風に読むんだろう、性別関係なく嫌悪を抱く人もいるのではないかと考えながら。濃密すぎる内容が少し息苦しいぐらいでした。

「産み」は親のエゴか

物語には、生まれてきたことを「よかった」と思っていない人が登場します。
産むことは親のエゴじゃないか、そう問いかける声。

生きてきたもの生まれてきたものが死ぬのは辛いが、生まれてこなかったら最初から悲しいとか嬉しいとかもないのではないか。
だったらなぜ生まれたんだろう。

なぜなら、親が産みたいと思ったから。

私は家族や友達に新しい命が宿るたび、テレビでめでたいニュースが流れるたび、
喜びと同時になんとも言葉にできないモヤッとした感情を確かに抱きました。
それは羨ましさや嫉妬ではなく、どちらかといえば恐怖に近いような感覚です。
まさに、この本ではその“恐怖”の部分が丁寧に描かれています。
子供が体験する苦しみや後悔・痛みは子供本人が背負うもの、親は代われないのです。

でもやっぱり、読み進めていくなかで、産むことが間違いだとは思えませんでした。
それは、結局私自身が恵まれた環境で育つことができたから。
悲しいことより楽しいことの方が多いと心のどこかで思っているから。
色々ありますが、そんなイチかバチかの幸せに賭けて産むの事が無責任な事なのか?
どんなに考えても産むことがネガティブなこととは思えないのです。

主人公の選択を見届けたとき、私の思考は追いつくことが出来ず、しばらく胸にしこりが残るような感覚でした。
最後のページから顔をあげたとき、読んだ人たちは何を感じるのだろうか。生まれてきて、生きて、死んでいくこの世界を、どんなふうに感じるのだろうか。大事な人と語り合いたくなりました。
数年後経って読み直した時に私は、どんな感情を抱き、どう捉える事ができるのかすごく楽しみです。永遠に正解の出ないテーマだからこそ、一生向き合い大事にした本だと思いました。

そして、何より素晴らしいのが、

感覚的に思っていることが綺麗に言語化されている

ところです。これは別作品でも感じていたのですが、この小説を読んで改めて素晴らしいと思いました。普段言葉にした事ないけれど抱えている感情だったり、どう表現したら良いか分からなかった思いが、トゲなく綺麗に言語化されており、その一言一言が本当に心に刺さります。

因みに、著者の川上未映子さんの存在を知ったきっかけは、3年前のCM撮影でした。
une nana cool(ウンナナクール)という女性下着ブランドのビジュアル撮影でしたが、
その時の作家が川上未映子さんでした。前記のとおり、とにかく言葉での表現が美しく、心打たれ、そこから川上さんの小説を読むようになりました。

↓こちらは2020年のビジュアルですが、今回も川上さんが作詞担当されており、
これまた素晴らしいので是非ご覧ください。
https://youtu.be/9ziIBu06kbw

「夏物語」に思いを詰め込みすぎて、長くなりましたので
もう一冊は軽く紹介だけさせて頂きます。

ピエール・ルメートル「その女アレックス」

まず、タイトルに惹かれますよね。
この作品は、以前一緒に仕事をさせて頂いた月川翔監督にオススメされ読みました。

こちらも色々な賞を受賞している素晴らしい作品です。

ミステリー小説の中でも、本書の衝撃は別格でした。
話の行方がいつまでも掴めず、ようやく着地するのかと思いきやもっと大きな問題が立ちはだかり、息つく間もなく物語にのめり込むことになります。

寄り添うと裏切られる。アレックスの正体知れば知るほど、とてつもない人物に出会ってしまったとう感慨を抱き、そこに生まれる複雑な感情の核が何なのか分からなくなります。

ミステリー小説大好きな人には本当にオススメの作品です。

いかがでしたでしょうか?
どちらの本も現場での出会いがきっかけで手にとる事ができた本でした。
私自身も、もっと周りの人とのコミュニケーションを大事にし自分の思いや考えを発信、共有していきたいと思っています。

私にとって、人に何かを伝えるというのは簡単な事ではないですが、
地道に訓練を積み重ねて、自分の目標とするプロデューサー像に近づけるように日々頑張りたいと思います。

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